「痛いくらいで休むな」。練習前に先輩からそう言われて痛む肩のまま接触練習に入ってしまう。言うのが先輩ではなくコーチや監督のこともあります。中学生の現場ではこういう場面が実際に起きています。
本人は「痛いから今日は接触を避けたい」と正しく判断できている。それでも後から何か言われるのが怖くて言い出せない。そのまま参加して痛みを悪化させてしまう。親御さんとしては一番見たくない流れだと思います。
ただこの問題は言い返し方を教えても解決しません。大事なのは今無理をすると自分の未来にどう跳ね返るかを本人が知っていることです。知っていれば自分で決められます。
自分はレッドハリケーンズ大阪アカデミーで中学生を指導しています。ケガとの向き合い方はどの選手にもいつか必ず訪れるテーマです。
この記事を読んでわかること- 続けていい痛みと、やめるべき痛みの見分け方
- 痛みをかばって続けると将来どうなるのか
- 家庭でそのまま使える「本人に考えさせる」質問の順番
お子さんが自分で「今日はここまでにします」と言えるようになると、親御さんも少し離れた場所から安心して見守れるようになります。
自分の体を守るのは自分しかいない
まず土台になる考え方があります。自分の体を守るのは自分だということです。
練習中に自分の体の中で何が起きているのか。それを本当にわかっているのは本人だけです。先輩にもコーチにも痛みは見えません。
「無理のない範囲でいいよ」と気づかってくれる指導者の方でも、本人が「大丈夫です」と言えばそれ以上は踏み込めません。だから最後に決めるのは本人になります。
厳しい言い方に聞こえるかもしれません。でもこれは責任であると同時に権利でもあります。行くか行かないかを決めていいのは本人だという話です。
そしてもう一つ大事なことがあります。冒頭の場面で「痛いから接触は避けたい」と自分で判断できていた。これ自体がすごいことです。判断は正しかった。伝えられなかっただけです。
続けていい痛みとやめるべき痛み
痛みには2種類あります。続けても大丈夫な痛みと、続けてはいけない痛みです。
疲れからくる張りや筋肉痛のような痛みは動かしながら回復していくこともあります。全体的にだるい。触っても痛い場所がはっきりしない。こういう痛みです。
一方でぶつけた場所がピンポイントで鋭く痛む。腫れている。熱を持っている。力が入らない。日常生活でも痛む。こちらは続けるほど悪化します。
りょうたコーチ同じ「痛い」でも中身は別物です。どっちの痛みなのかを言葉にするだけで、子どもの判断はかなり変わります!
そして判断に迷うときは必ず病院で診てもらってください。「大丈夫かも」という自己判断で押し切るのが一番危ない選択になります。
お医者さんに診てもらったうえで決めると本人の判断に根拠が生まれます。「先生に止められているので今日は外れます」と言えれば周りに押し切られることもありません。自分の答えに自信を持てるようになります。ここは大人が背中を押してあげたいところです。
痛みをかばうと崩れた動きだけが残る
痛みをかばって練習を続けるとその影響は治ったあとまで残ります。ここが一番お伝えしたいところです。
人は痛いところがあると必ず無意識に別の動き方をします。肩が痛ければ当たる向きが変わる。腕の使い方が変わる。体の入れ方も変わります。
その崩れたフォームのまま何度も繰り返すと、体はそれを覚えてしまいます。
厄介なのは痛みが治ったあとも癖だけが残ることです。フォームが崩れたままなのでプレーが上手くならない。同じ場所を何度も痛める。別の場所に負担がかかって新しいケガをする。こういう流れになりがちです。
今日の1本を守るために、この先何年分ものプレーを削ってしまう。これが一番もったいない失い方です。
だから同調圧力への対処は言い返し方のテクニックではないと考えています。理由がわかっていない「休みます」は一言強く言われただけで折れます。でも自分で納得して決めたことは意外と曲がりません。
伝え方も「休みます」より「今日はここまでにします」のほうが通ります。決めた事実だけを短く伝える。理由を長く説明するほど相手に反論の余地を渡してしまうからです。
家では答えを教えず質問で考えさせる
親御さんの声かけのポイントは1つだけです。答えを提示せず質問して本人に考えてもらうことです。
「無理しちゃダメでしょ」と正解を渡してしまうとそれは親御さんの判断であって本人の判断になりません。
次に同じ場面が来たときその場に親御さんはいません。自分で決められる子にするために家で考える練習をしておく。そういうイメージです。
声かけ例「今の痛みはどんな痛み? 動かすと痛い? 昨日と比べてどう?」
「このまま続けたら、どんないいことがある?」
「逆に、続けたらどんな悪いことが起きそう?」
「それを比べたら、どっちが得だと思う?」
「じゃあ、それをどう伝える? 誰に言っておけばいい?」
大事なのは途中で口をはさんで正解を言わないことです。少しズレた答えが出ても「なるほど。じゃあもしこうなったらどうする?」と質問を重ねていきます。
とくに2つ目の「どんないいことがある?」は飛ばさないでください。メリットも本人の口から言わせてはじめて天秤にかける形になります。
これを何回か繰り返すと自分で比べて決める回路ができます。この回路は先輩の前でも同級生同士の空気の中でも働きます。
もう一つ。無理をして失敗したときは責めないでください。「言えなかったんだね。怖かったよな」と一度受け止めてから次はどう言うかを一緒に考える。ここで叱ってしまうと次から痛みを隠すようになります。それが一番避けたい状態です。
体格差から身を守るのは根性ではなく技術
体の大きさが違いすぎる相手との練習には大きなリスクがあります。ここは大人が守ってあげるべき場面です。
ただ試合になればどうしても自分より大きな相手と当たる場面は出てきます。そこから逃げ続けることはできません。
そのときに自分を守れるのは根性ではありません。正しいスキルです。
低く入る。当たる位置を間違えない。頭を守る姿勢を取る。こうした技術は上手くなるための技術であると同時に自分の体を守るための技術でもあります。
気持ちで乗り越えようとするほど危ない。逆に正しい技術を意識して身につけている選手は大きな相手とやっても大きなケガをしにくくなります。
「痛くても我慢しろ」ではなく「安全に当たれる技術を身につけよう」。子どもに渡すべきなのはこちらです。
まとめ
この記事のまとめ- 自分の体を守れるのは自分だけ。最後に決めるのは本人
- 続けていい痛みと、やめるべき痛みは別物。迷ったら必ず病院へ
- 痛みをかばうと崩れたフォームが癖になり再発しやすい体になる
- 家では答えを渡さず、質問して本人に考えてもらう
- 体格差から身を守るのは根性ではなく技術
この積み重ねができると、お子さんは周りの空気ではなく自分の判断でプレーを選べるようになります。親御さんにとっても「うちの子は自分で決められる」という安心につながります。
今日できることは1つです。気になる痛みがあるなら「その痛みってどんな痛み?」と聞いてみてください。アドバイスはいりません。聞くだけでいい。そこから始まります。